11月21日に、朝日新聞が運営する言論メディア「WEBRONZA」に中小企業振興をテーマに寄稿をしました。会員向けの有料メディアということもあり、編集部の了解を得て秋元ブログにも転載します。(他媒体への転載はNGとのことです)ぜひ、ご一読ください。

広がる、中小企業支援の新しい形
「攻めの支援」へ転換、全国20地域以上に「売上アップ」に特化した相談所
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地方創生は、地域の産業活性化がキモ

 「地方創生」というキーワードがスポットライトを浴びていますが、中でも重要なのは地域経済の活性化。その街に住む人が増えるためには、その街に仕事があり儲かる、ということが重要だからです。仕事のあるところに人が集まり、そして街になってきた…という成り立ちを考えれば至極当然なことのように思われます。

 では、地域経済の活性化に必要なことは何でしょうか。今ある会社を強くする中小企業支援か、今はない会社を新たに生み出すか。

1)企業・工場誘致
2)新規創業の支援
3) 既存中小企業の支援


 (1)企業・工場誘致や(2)新規創業の支援ももちろん重要です。しかし、そもそも工業立地が国内だけでなく世界的な視点で行われる中で、国内への工場進出は減少していること。加えて、各自治体が支援策(要は補助金や税減免ですね)を拡充し合い、いわば札束の叩き合いで熾烈な誘致競争をしている現状を、まず理解しなければいけません。

 さらに、機械化された工場は無人化が進み、地域に生み出す雇用は限定的です。また、補助金や助成制度の切れ目で、売却されたり他地域へ移転しまったり…という話すらよく耳にします。

 (2)新規創業の支援もまた、もちろん進めるべきです。ただし、統計を紐解けばすぐに明らかになる通り、今年100社創業したとしても、10年後に事業継続しているのはおよそ5社程度…。つまり90%以上は10年以内に廃業してしまっている、ということは事実としておさえる必要があるでしょう。

 また、新規創業というと、株式上場(IPO)をめざすベンチャー企業といったイメージを持つ人もおられるかもしれません。しかし、実際は、雑貨店やカフェ、ネットショップなど生活に密着した地域のスモールビジネスも多いのです。

 だからこそ今、より重視すべきは「地域に根づく既存中小企業をいかに活性化するか」ではないかと思うのです。1社で100名の雇用を生むことよりも、100社それぞれで1名ずつの新たな雇用を生んでいくことはできるのではないか、と考えます。

地域の小さな会社の「売上アップ」の応援が今、求められている

 地域に根ざした小さな会社を、いかに元気にしていくか。これまで中小企業には様々なニーズがあると言われてきました。技術指導や知財管理、財務分析などの専門家を揃えた公的な産業支援機関も全国各地に作られてきました。しかし、実際はその多くで、閑古鳥が鳴いているといわれています。

 中小企業白書に掲載されている、2012年に野村総研が行った中小企業に対する調査では、おおよそ65%の企業が「定期的経営相談相手はそもそもいない…」と答えています。相談相手を答えた35%の方々の、相談先も以下のとおりです。

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中小企業の相談相手に関する調査結果

 一方、同じ年に日本政策金融公庫によって行われた調査では、経営上の悩み・課題の多くは「売上アップ」に集中しています。筆者によるオレンジ色で囲んだものは、ズバリ売上アップを実現したいということにほかなりません。

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中小企業の経営上の課題に関する調査結果

 また、資金調達や借り入れなども、健全な形での売上アップが見込まれれば、おおむね解決される問題です。同じように設備投資や研究開発の加速には、資金手当が必要となります…が、これも売上アップを通じて解決していくことができるわけです。

 これらのデータから、中小事業者の大半は、売上アップに関しての悩みや課題を有している。しかし、相談をしたいと思っても、そもそも相談相手もない。実際、相談する相手がいる…とはいっても売上アップに専門性を有しているわけではない、のが現実だということが浮かび上がってきます

OKa-Bizに寄せられる相談は年間2500件以上

 一方で、筆者が運営する岡崎ビジネスサポートセンター・OKa-Biz(オカビズ)は、3.7名/日の相談員配置ながら、1年間で2500件以上の相談が寄せられ、今も相談予約は約1カ月待ち。新たに相談に訪れる方の7−8割は口コミです。「OKa-Bizに行けば売上が上がるから」「スピード感を持ってサポートしてくれる」との評判が、さらなる相談者を集めています。

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岡崎ビジネスサポートセンターの相談員たち

 OKa-Bizは、富士市産業支援センター・f-Bizをモデルに、2013年10月に愛知県岡崎市が主導し開設された公的な産業支援機関です。相談は1回1時間で、利用料は無料。最大の特徴は、中小企業や新規創業者の「売上アップ」に特化した支援を行っているということです。開設時より、筆者はOKa-Bizセンター長として多い日には、1日6件から7件の中小事業者の方々の個別相談に応じています。

 2016年夏に行われたアンケートでは、相談者の実に70.7%が、「OKa-Bizに相談して売上が上がった」もしくは「今後売上が上る見込みだ」と回答しています。

求められる「攻めの経営支援」

 これまで市町村単位の公的な産業支援機関での中小企業支援といえば、1)記帳などの会計支援、2)借入時の利子負担の一部補助、3)展示会出展時などの一部補助金 4)セミナーの実施、といったものが一般的でした。

 たしかに、高度成長期など経済全体のパイが拡大する時代においては、バックオフィス支援など「守りの経営支援」を行っていくことが重要でした。守りの経営支援を行っていきさえすれば、市場拡大の中で中小企業の各社は、売上をのばし事業拡大をしていくことができたからです。

 しかし、バブル崩壊以降、人口も減少に転じ、経済成長に陰りが出てきました。今後、本格的に縮小を始めるであろう日本経済においては、単に守りを固めていく経営支援ではなく、「売上アップ」という攻めの経営支援が、今まさに求められているのでは、と考えます。

 地域の中小企業に、共通するのは「お金がない」「ヒトがいない」「余裕がない」という状況。そんな中で、流れを変えていくのは、「知恵を出していく」こと。その知恵の出し手として、公的な中小企業相談所が求められているのではないか、と考えます。

 2012年に中小企業庁より出されたレポート「変わる中小企業、変われるか支援人材」でも同様の指摘があります。しかし、支援の現場ではまだまだ旧来型のサポートが中心だとの声も事業者からは聞かれます。

 私たちOKa-bizは、1時間じっくりとお話をお伺いする中で、以下のような観点から売上アップに向けた具体的な知恵出しを行います。できるだけ投資の発生しない、つまりお金のかからない打ち手を提案していきます。その上で、デザイン・IT・コピーライター・中小企業診断士などさまざまな専門家とチームを組んで、成果が生まれるまで継続的にサポートしていきます。

1)本人の気づいていない真のセールスポイントを活かす
2)ターゲットを絞り、利用シーンを提案する
3)連携やコラボレーションする

知ってもらう、情報発信のサポート

(事例1)下請け自動車部品町工場の新分野進出で、全国から注目

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「お名前かくれんぼ」

 株式会社飯田樹脂(岡崎市)は、プラスチックなど樹脂関連の自動車部品下請け製造をおこなう、いわば町工場。従業員13名で、現在のところ下請け仕事が堅調とのこと。しかし、先々を見通した時に、自社商品を制作し新たな収益の柱を作っていきたい…ということで、OKa-Bizに相談にお越しいただきました。
 当初、お持ちになったのはアクリル製の結婚式などで用いるウエルカムボードでした。1時間の相談の中でじっくりとお話をお伺いすると、こだわりは、自動車部品加工で培われた精密な加工とのこと。彫った文字がはっきりくっきりと見えるように、加工時の刃の入れる角度や、深さもミクロン単位で制御しているとのことでした。

 そこで、OKa-Bizが発想を転換し、新たな事業展開への知恵出しを行います。

 文字をはっきりくっきりと見えるように加工ができる、ということは逆に、文字が見えにくく加工することもできるのではないか?とお尋ねすると、「やったことはないが、おそらくできるのではないか」とのご返答。

 近年、関東地区で登下校時の児童が名札で名前を特定され連れ去られてしまった事件を契機に、全国各地の小学校では登下校時に名札を外すような指導が一般的に行われていること。そうした中で、裏返すことのできる名札が売れている…ということを背景でお伝えしつつ、新商品の開発に取り組んだのです。

 近くではちゃんと読めるが、ちょっと距離が離れると読めなくなる、そんな防犯名札「お名前かくれんぼ」を開発。瞬く間に全国から注目を集め、今春には首都圏はじめ各地の幼稚園や保育園の卒園記念品としても採用されるなどしています。

 副センター長を中心に、真のセールスポイントを活かしつつ、新たな利用シーンを提案し、新商品を開発して新たな分野に展開をしていきました。

 お金をかけずに、知恵を使って流れを変えていく…そんなOKa-Bizのサポートの一例です。

(事例2)染色剤が、お金をかけずに大ヒット商品へ

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フラワーキット

 トリイ株式会社(愛知県一色町)は、従業員8名の化学薬品問屋。業務用の薬品卸100%で事業を運営してきたが、リーマンショック以降続く売上減少に悩まされていた。そんな中で、売上アップを図ろうと、生花用の染色剤を花屋に販売しようと営業をしたもののまったく反応がなく、OKa-Bizに相談にやってきました。
 伺うと、例えば赤色のごく少量の染料をまず水に溶かし、その色の付いた液に白い切り花の茎を浸して使うというのです。1〜2時間もすると、その切り花は水を吸い上げ、真っ白だった花びらは徐々に赤く染まっていく…。これがおもしろいのではないかと考え、花屋を中心に営業を行ったが、まったく反響がなかったというのです。

 そこでOKa-Bizは、全く相談者が想定していなかった用途を提案し、新たな事業展開を進めます。

 小学校の理科授業の中で、同様の実験を通じて植物の生態を学習する機会があることを伝え、小学校中・高学年を対象に「夏の自由研究 花の染色観察キット」として展開。商品開発とともに、インターネット販売などのサポートを行い、夏休みを中心に大きな売上に。そして、トリイ社の取り組みを目にした大手学習出版社からの1万セットの大量受注へとつながったのです。

 その後もさらに、東急ハンズやヨドバシカメラなどでの販売が決定。商品の特徴を活かしつつ、ターゲットを特定し具体的な利用シーンを提案。新商品を通じて、新た分野へと進出していきました。業務用卸に比べ、利益率も高く、お金をかけることなく知恵で大きく流れを変えることになりました。

 OKa-Biz では1時間の相談を通じて方針を定め、コンセプトを固めていきます。そしてその後は、デザインやITなど専門性を持つアドバイザーと連携をし、チームを作って成果が出るまでサポートしています。

OKa-Bizの元、f-Bizモデルが全国で急速に拡大

 こうしたOKa-Bizでの取り組みのモデルになったのは、富士市産業支援センター・f-Biz(静岡県富士市)。2008年に開設され、小出宗昭センター長は9年間で1000を超える中小企業の新事業をサポートし、全国から注目を集める存在となっています。

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f-Bizのホームページ

 このf-Bizモデルにいち早く注目し、自治体主導では富士市についで常設型の中小企業相談所を開設したのが、岡崎市のOKa-Bizです。富士に続いて、岡崎での成果も受け、f-Bizモデルがここ、1,2年で急速に全国に広がりを見せ、来春までに全国20地域以上に、こうした「売上アップ」に特化した相談所が開設されていきます。

 2015年に開設したAma-biZ(熊本県天草市)や、2016年に開設したSeki-Biz(岐阜県関市)をはじめ、各地でも全国から注目される中小事業者の売上アップの事例が生まれ、また相談待ちも1カ月を超えることもあるなど、どこでも高い成果を上げています。

 これまで書いてきたとおり、縮小する経済トレンドの中で、求められる中小企業支援が明確に変わってきています。今まさに求められるのは、中小企業の「売上アップ」の知恵の出し手です。

 「守りの中小企業支援」から、「攻めの中小企業支援」への転換が期待されています。

秋元 祥治

▼岡崎ビジネスサポートセンター・OKa-Biz センター長
  岡崎市康生通西4-71 りぶら2F http://www.oka-biz.net
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▼NPO法人G-net 理事(創業者)
  岐阜市吉野町6-2 ブラザービル2F http://www.gifist.net
▼内閣府 地域活性化伝道師/岐阜大非常勤講師
  早稲田大社会連携研究所招聘研究員
  慶應義塾大学SFC研究所所員
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