アップサイクル、という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
本来は捨てられるはずの素材に新たな価値を与えて再生し、付加価値ある商品とすること。デザインやアイディアを用いたこうした取り組みは、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも歓迎され、急速に広がりつつあります。

▼自動車用シート廃棄材のアップサイクルを考えるトヨタ紡織

こうした中で、トヨタ紡織が自動車シートなどの廃棄される表皮材を使用した新商品を、街の小さな家具工場や革職人と連携して発表・販売をスタートさせています。この取組み、今から半年前に私がチーフコーディネーターをしているオカビズ(岡崎ビジネスサポートセンター)にトヨタ紡織の担当者が、自動車用シートの廃棄材の利活用について相談に訪れたことをきっかけにスタートしました。
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トヨタ紡織の取り組みに対して、中小企業の強みや技術力を生かし、スピート感をもった共創の可能性を感じ、ビジネスマッチングを提案。
中小企業の現場でもSDGsへの関心の高さや展開の必要性を感じてきており、商品化のサポートを行いました。
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※コトブキ工芸との顔合わせの様子

▼地域の町工場・革職人とのマッチングから生まれた共創

こうしたビジネスマッチングから、なんどもの試作や意見交換を経て、9月9日から11日の3日間イオンモール岡崎でポップアップ販売が行われました。

従業員20名ほどの家具製造町工場「コトブキ工芸」(岡崎市)は、幼児が積み木のように遊ぶことができるプレイクッションに廃棄されるはずだった自動車シートを利用。高い品質を求められる車のシート用の生地は、耐水・耐摩耗とともによごれにも強い、といった特徴をいかしインテリアにも馴染む色合いを目指したという。今年末頃からインターネットでの販売を予定しています。
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minneハンドメイド大賞で表彰経験もある革工房「ガロチャ」(岡崎市)は、パッチワークの手法で、さまざまな色や形のシート廃棄材を縫い合わせて一点物の靴(受注生産82,280円)や財布(12,100円)、名刺入れ(8228円)などを販売。
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ガロチャ・大山敬志代表は、初めての大手企業との共創は、当初心配はあったものの大きな手応えを感じているといいます。個人事業主ではできない情報発信とともに、多様な素材を活用した商品開発ができたことがメリットだったといいます。
また、社会がSDGsやアップサイクルに関心高まっているということも実感でき、ガロチャの技術やパッチワークデザインが課題解決に貢献できるなら、それはとてもうれしいと再確認できた、といいます。
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※多様な自動車用シートなど廃棄材を使用して作られた靴

大企業や行政機関などでは、外部と連携して新たなチャレンジを行う「オープンイノベーション」という考え方が広がりつつあります。柔軟な発想やスピード感を期待し、主にスタートアップ企業と連携した取り組みが多いのですが、実際の「ものづくり」と小回りがきくスピード感は地域の中小町工場も決して負けていないのです。

トヨタ紡織と中小企業との連携した共創の取り組みが、小規模なチャレンジからスピード感をもって取り組めたことに、トヨタ紡織の担当者も驚いたといいます。
「異業種の中小企業と連携してアップサイクルの取り組みを行うは、当社にとっても初めてのことで手探りの挑戦でした。振り返ってみて、最も印象的なのはスピード感。彼らの提案や試作のスピードが早く、驚いたのです。例えば、コトブキ工芸さんとの対話の中で、クルマ型のクッションはつくることができないか?とお話をしていると、1週間で試作が仕上がってきて、この展開の速さには驚きました。」
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※参考出品されたクルマ型のクッション

また、コトブキ工芸の縫製技術の高さにも驚いたとも言います。地元の中小会社との連携を通じて、気づきは多く技術の高さを実感したので、今後もさまざまな協業を考えていきたいとも、トヨタ紡績の担当者は語っています。

ガロチャ・コトブキ工芸とも、今後も異業種との共創には積極的に取り組みたいと前向き。期待するのは、異業種とのコラボで新しいターゲットにアプローチできる可能性。また、素材や技術的な交流からの気づきも大きかったといいます。

▼今求められる地域産業での、業種や規模、セクターを越えた共創

これまで行われてきた公的な中小企業支援は、補助・助成金獲得のサポートや、記帳指導・制度融資といったものが中心でした。高度成長期からバブル期にかけて人口が拡大する中で、中小企業の守りを支援していくことがメインだったのです。いわば中小企業支援1.0。

一方、2000年代に入り、人口減少局面を迎えた日本。市場が縮小していく中で、いかに売上を伸ばし、確保していくかが中小企業支援で求められるようになります。
マーケティングやPR視点から個別企業の売上アップ支援を強化するという大きな流れが生まれてきており、中小企業支援2.0と言えるでしょう。

そして今、地域産業の再生に求められるのは、業種や規模・セクターを越えて共創を生み出すことです。その際には、大企業や中小企業、レガシー企業やスタートアップ、行政やソーシャルビジネスなど業種や規模に関わらない、クロスセクターによる共創を目指すことが大切です。

新たな変革や挑戦を自分たちだけで考え、行動にうつしていくことは容易ではありません。同業者組織や、地域経済団体などがこれまで交流機会として一定の役割を果たしてきました。ですが、求められているのは「これまでにない連携」からの「新たな共創」です。

共創をさらに加速させるためには、規模の違いやセクターを超えた新規事業開発などを通じ、地域内に「チャレンジのエコシステム」を育むことが重要でしょう。
そしてそうしたエコシステムの形成をアクセラレートする存在(加速させる存在)として、公的な産業支援機関が役割を担うこと、これこそが、「中小企業支援3.0」として、求められている役割だと言えるのではないでしょうか。

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秋元 祥治 「やろまい!」事業のゼロ→イチへ
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株式会社やろまい 代表取締役
 オカビズ チーフコーディネーター
 武蔵野大学EMC 教授

 ・大手通信会社や全国新聞社等大企業の新規事業・オープンイノベーション支援
 ・地場産業企業、ソーシャルベンチャーなどへの出資・経営支援
 ・コメンテーター:TBS「Nスタ」、KBS京都「Kyobiz」、ZIP-FM「Morning Boost」
 ・Yahoo!ニュース オーサー、ForbesOnline コラムニスト

著作「20代に伝えたい50のこと」 http://amzn.asia/1AE0eGY