1年ほど前にお声掛けをいただき視察に伺った京都府与謝野町に、改めて有識者を招く視察ツアーをまた実施するので、と再度訪問する機会を得ました。京都駅から車で1時間半弱、決して好立地とは言えませんが、ついまた訪ねたいと思う素敵な土地です。今回も、山添藤真・与謝野町長にアテンドいただきながら、地域の様々な活性化の事例を拝見させていただきました。与謝野町(よさのちょう)は、京都府北部、日本海に面した丹後半島の尾根を背景とし、福知山市、宮津市、京丹後市などに接しています。平成18年3月1日、加悦町・岩滝町・野田川町が合併し誕生した町で、人口は2万人弱。江戸時代からは丹後ちりめんが地場産業として栄えた地域です。
与謝野町と切っても切り離せない丹後ちりめんの技術を、現代のライフスタイルに合わせて展開し、支持を集めているクスカ株式会社の工房を訪れました。クスカは1936年創業で、初代楠嘉一郎からつづくちりめん製造販売業。創始者の名前の頭文字から、現在はクスカという社名になったといいます。

楠泰彦社長は、丹後ちりめんは産地で、最盛期には年間で地球4周半分、1000万反もの生産量があったと言います。しかし和服から洋服を中心としたライフスタイルの変化の中で、現在では年間15万反…1.5%にまで生産量は大幅に縮小したとのこと。経営的にも困難な局面を迎えた中、2008年に社長に就任した楠泰彦さんは、大量生産に適しそれまで工場で行っていた機械織機を全廃し、生産効率は悪いが唯一無二の質感を生み出すことができる手織り織機を導入します。

機械織では生み出すことのできない豊かな表情が支持され、現在ではデパートなどでも取り扱われ、帝国ホテル内にショップ出店をするなど順調に事業に取り組んでいます。

300年を超える丹後ちりめんの歴史と伝統を、市場トレンドやファッション性とかけ合わせることでビジネスとして成立させています。実際に今回は工房を訪問し、織機や織物に触れる機会を持ったことで愛着や思い入れへと繋がりました。
続いて訪れたのは、京都丹後鉄道宮豊線与謝野駅前に出来たブルーワリーに併設された店舗・PUBLIC HOUSE TANGOYA。1年前にはなにもなかった更地の場所に、店舗が誕生しました。店長の野村京平さんに今秋以降稼働予定のブルワリーも案内してもらい、自慢のクラフトビール「ASOBI」を頂きました。

与謝野町は、まちぐるみでホップ生産に取り組んでいます。高い価値提供ができる農作物の栽培と6次産業化に取り組んでいく必要があると考えていた地元農家の呼びかけをきっかけに、2015年4月にホップ定植をスタート。全国的にも希少なホップの栽培に取り組みながら、クラフトビール産業の創出をめざし、農業振興のひとつとして支援を開始する(2015年4月に初めてホップを定植)。収量は5年で10倍以上になり、2019年には、Iターンした若者たちによるろ株式会社ローカルフラッグが、ビール醸造を始めたのです。

店長を務める野村さんは東京で大手企業勤務を経てIターン。その野村さんが大学進学のため地元を離れる前、居酒屋で隣同士になった(野村さんはお父さんとふたりで)のが最初の出会いだと山添町長は振り返ります。その際に、「いつか与謝野町に戻ることを考えている」と語る野村少年(当時)と意気投合し、そのときには与謝野町で一緒にお酒を酌み交わそうと約束したといいます。次に出会ったのは、野村さんの成人式。山添町長のお祝いの言葉に対し、野村さんが新成人代表の謝辞を述べ、そして時は過ぎ、Iターンを経ていまでは一緒に与謝野町を活性化しようとタッグを組んでいるのも、また素敵なご縁です。
そして夕方になり「与謝野町のホップ畑を案内します」と山添さんに言われ、ドレスコードは白色でと指定をされ着替えて移動。車で案内していただくとホップ畑には素敵な仕掛けが。

圃場に、テーブルと椅子がセットされ、ホップに囲まれた中でアペロ(食前酒とおつまみの簡単なパーティー)をたのしむことができる、という粋な仕掛けが。
その土地で取れたものを、その土地を愛する人達が丹精込めて加工して美味しいビールを作り上げ、そしてゆっくりと味わい、語らう時間。

なんと豊かな、ことでしょう。
ラグジュアリーとは、贅沢で豪華なものを意味してきました。
単に贅沢や高価であるということではなく、その土地でなければ味わえない貴重で豊かな体験や時間を過ごすことができることを「ローカルラグジュアリー」と定義したいと私は思います。
前回の訪問時にも寄稿しましたが、地域の方々が誇りとともに育んでいる文化的あるいは経済的な営みにこそ、ローカルラグジュアリーとしての価値を見出しうると思います。
政府はこれから産業の柱の一つとして観光誘客を掲げます。コロナ禍が明け、インバウンドも急激に戻りつつあります。しかしその実、外国人観光客の宿泊地を見ると、全体の65%が東京、大阪、京都、北海道、沖縄に集中しています。しかも観光地の上位10位までで80%を占めているといるという現実。そして、2週間以上の滞在も珍しくない欧米の観光客や富裕層は通り一遍な観光地巡りではなく、「本当の日本の魅力」を求めていると言います。
まさに、歴史や文化に根ざし、その土地でなければ味わえない唯一無二を体感できローカルラグジュアリーこそが、これから求められる地域振興のキーワードだと思うのです。
土地の風土、歴史、産業や記憶、そして人。
丹後ちりめんの歴史が今に息づくクスカの工房の現場を体感し、
新たに取り組むホップ畑や、若者の挑戦から生まれたブルワリー。
そして、ジビエなど地のものを生かした食と酒。
まさにローカルラグジュアリーです。
星野リゾートが経営するリゾナーレ那須では「アグリツーリズモリゾート」という取り組みが。広大な敷地内に田畑を所有し、さまざまな自然体験ができるプログラムが人気を集めています。奥入瀬渓谷ホテルでは、苔に注目した体験宿泊プログラムが人気を集めています。「日本の貴重なコケの森」に選定されている奥入瀬渓流には、日本で約1800種類ある苔のうち約300種の苔が生息しているそう。
徳島県にある、アレックス・カー氏監修の古民家宿「桃源郷祖谷の山里」は、秘境・祖谷に滞在し、生活設備はすべて整った古民家を1棟貸し切りで宿泊するスタイルで、海外の人たちにも人気です。

「茶の間」は、静岡県内7箇所の茶畑に設置されている完全予約制のプライベートティーテラス。 その土地のお茶を飲みながら、大切な恋人と気の合う仲間とじっくりと語り合えると、1人90分3980円にもかかわらず、人気を博しています。
ローカルラグジュアリー
単に贅沢や高価であるということではなく、その土地でなければ味わえない貴重で豊かな体験や時間を過ごすことが、今回の与謝野町の滞在でも実感することができました。
与謝野町と切っても切り離せない丹後ちりめんの技術を、現代のライフスタイルに合わせて展開し、支持を集めているクスカ株式会社の工房を訪れました。クスカは1936年創業で、初代楠嘉一郎からつづくちりめん製造販売業。創始者の名前の頭文字から、現在はクスカという社名になったといいます。

楠泰彦社長は、丹後ちりめんは産地で、最盛期には年間で地球4周半分、1000万反もの生産量があったと言います。しかし和服から洋服を中心としたライフスタイルの変化の中で、現在では年間15万反…1.5%にまで生産量は大幅に縮小したとのこと。経営的にも困難な局面を迎えた中、2008年に社長に就任した楠泰彦さんは、大量生産に適しそれまで工場で行っていた機械織機を全廃し、生産効率は悪いが唯一無二の質感を生み出すことができる手織り織機を導入します。

機械織では生み出すことのできない豊かな表情が支持され、現在ではデパートなどでも取り扱われ、帝国ホテル内にショップ出店をするなど順調に事業に取り組んでいます。

300年を超える丹後ちりめんの歴史と伝統を、市場トレンドやファッション性とかけ合わせることでビジネスとして成立させています。実際に今回は工房を訪問し、織機や織物に触れる機会を持ったことで愛着や思い入れへと繋がりました。
続いて訪れたのは、京都丹後鉄道宮豊線与謝野駅前に出来たブルーワリーに併設された店舗・PUBLIC HOUSE TANGOYA。1年前にはなにもなかった更地の場所に、店舗が誕生しました。店長の野村京平さんに今秋以降稼働予定のブルワリーも案内してもらい、自慢のクラフトビール「ASOBI」を頂きました。

与謝野町は、まちぐるみでホップ生産に取り組んでいます。高い価値提供ができる農作物の栽培と6次産業化に取り組んでいく必要があると考えていた地元農家の呼びかけをきっかけに、2015年4月にホップ定植をスタート。全国的にも希少なホップの栽培に取り組みながら、クラフトビール産業の創出をめざし、農業振興のひとつとして支援を開始する(2015年4月に初めてホップを定植)。収量は5年で10倍以上になり、2019年には、Iターンした若者たちによるろ株式会社ローカルフラッグが、ビール醸造を始めたのです。

店長を務める野村さんは東京で大手企業勤務を経てIターン。その野村さんが大学進学のため地元を離れる前、居酒屋で隣同士になった(野村さんはお父さんとふたりで)のが最初の出会いだと山添町長は振り返ります。その際に、「いつか与謝野町に戻ることを考えている」と語る野村少年(当時)と意気投合し、そのときには与謝野町で一緒にお酒を酌み交わそうと約束したといいます。次に出会ったのは、野村さんの成人式。山添町長のお祝いの言葉に対し、野村さんが新成人代表の謝辞を述べ、そして時は過ぎ、Iターンを経ていまでは一緒に与謝野町を活性化しようとタッグを組んでいるのも、また素敵なご縁です。
そして夕方になり「与謝野町のホップ畑を案内します」と山添さんに言われ、ドレスコードは白色でと指定をされ着替えて移動。車で案内していただくとホップ畑には素敵な仕掛けが。

圃場に、テーブルと椅子がセットされ、ホップに囲まれた中でアペロ(食前酒とおつまみの簡単なパーティー)をたのしむことができる、という粋な仕掛けが。
その土地で取れたものを、その土地を愛する人達が丹精込めて加工して美味しいビールを作り上げ、そしてゆっくりと味わい、語らう時間。

なんと豊かな、ことでしょう。
ラグジュアリーとは、贅沢で豪華なものを意味してきました。
単に贅沢や高価であるということではなく、その土地でなければ味わえない貴重で豊かな体験や時間を過ごすことができることを「ローカルラグジュアリー」と定義したいと私は思います。
前回の訪問時にも寄稿しましたが、地域の方々が誇りとともに育んでいる文化的あるいは経済的な営みにこそ、ローカルラグジュアリーとしての価値を見出しうると思います。
政府はこれから産業の柱の一つとして観光誘客を掲げます。コロナ禍が明け、インバウンドも急激に戻りつつあります。しかしその実、外国人観光客の宿泊地を見ると、全体の65%が東京、大阪、京都、北海道、沖縄に集中しています。しかも観光地の上位10位までで80%を占めているといるという現実。そして、2週間以上の滞在も珍しくない欧米の観光客や富裕層は通り一遍な観光地巡りではなく、「本当の日本の魅力」を求めていると言います。
まさに、歴史や文化に根ざし、その土地でなければ味わえない唯一無二を体感できローカルラグジュアリーこそが、これから求められる地域振興のキーワードだと思うのです。
土地の風土、歴史、産業や記憶、そして人。
丹後ちりめんの歴史が今に息づくクスカの工房の現場を体感し、
新たに取り組むホップ畑や、若者の挑戦から生まれたブルワリー。
そして、ジビエなど地のものを生かした食と酒。
まさにローカルラグジュアリーです。
星野リゾートが経営するリゾナーレ那須では「アグリツーリズモリゾート」という取り組みが。広大な敷地内に田畑を所有し、さまざまな自然体験ができるプログラムが人気を集めています。奥入瀬渓谷ホテルでは、苔に注目した体験宿泊プログラムが人気を集めています。「日本の貴重なコケの森」に選定されている奥入瀬渓流には、日本で約1800種類ある苔のうち約300種の苔が生息しているそう。
徳島県にある、アレックス・カー氏監修の古民家宿「桃源郷祖谷の山里」は、秘境・祖谷に滞在し、生活設備はすべて整った古民家を1棟貸し切りで宿泊するスタイルで、海外の人たちにも人気です。

「茶の間」は、静岡県内7箇所の茶畑に設置されている完全予約制のプライベートティーテラス。 その土地のお茶を飲みながら、大切な恋人と気の合う仲間とじっくりと語り合えると、1人90分3980円にもかかわらず、人気を博しています。
ローカルラグジュアリー
単に贅沢や高価であるということではなく、その土地でなければ味わえない貴重で豊かな体験や時間を過ごすことが、今回の与謝野町の滞在でも実感することができました。