物価高が続く中で、最初に消費が控えられるのは「贅沢品」とされるものだ。その代表例がスイーツ、とりわけホールケーキの売上減少は顕著だという。そんな逆風の中で新たな挑戦に踏み出したのが、愛知県岡崎市の老舗洋菓子店「ガトータツミヤ」だ。創業90年を超え、地元で愛されてきた。

同店の代表・山本和典シェフが約10か月前、岡崎ビジネスサポートセンター(オカビズ)を訪れたのが始まりだった。「新しい展開ができないか」と相談を持ちかけた山本氏。すでに新ブランドの立ち上げや異業種とのコラボなど、様々な試みを行っていたが、期待したほどの手応えが得られていなかったという。
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※山本和典シェフ(ガトータツミヤ サイトより)

オカビズの専門家が注目したのは、山本氏が自信を持っていた「バタークリーム」だ。このクリームは特殊な製法で作られており、乳脂肪分が低く、軽い食感が特徴だ。「パクパク食べられる軽さ」が売りで、山本氏自身も疲れた時のご褒美としてスプーンですくって食べるほどのお気に入りだという。

この話にヒントを得て新たに生まれた新展開は、「バター好き」にターゲットを絞る戦略だった。近年、バターそのものを楽しむ消費者は増えている。例えば、フランス産の高級バター「エシレ」は売り切れが続出し、バターサンド専門店も各地に登場している。
同時に注目したのは、いわば偏愛。中村屋のあんまんのごまあん好きのために、あのごまあんだけを瓶詰めにした「黒ごま香るなめらかあん」という商品が人気のトレンド。
そこで、バターサンドの「サンド抜き」、つまり「バタークリームだけ」の商品なら、バター愛好家に刺さるのではないかと考えた。

その後半年以上の商品開発期間を経て誕生したのが、「バターサンドのバタークリームだけいっとく?!」である。
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本商品は、バターサンドのクリーム部分だけを楽しめるスイーツ。塩キャラメル、西尾抹茶、瀬戸内レモン、ラムレーズン、ショコラ、カシスベリーの6種類のフレーバーが展開される。12個入り(各フレーバー6種×2個)で3,240円(税込)。冷凍販売で、ガトータツミヤのオンラインショップにて購入可能だ。

この「好きな部分だけを楽しめる」コンセプトは、近年のヒット商品とも共通する。「メロンパンの皮だけ焼いちゃいました」「ホームパイのみみだけ」など、特定のパーツにフォーカスした商品はSNSでも話題となりやすい。まさに偏愛、この流れに乗せた形だ。

しかし、商品化には課題もあった。バタークリームは温度変化に弱く、食感を保つためには適切な形状や保存方法を見極める必要があった。試作を重ね、ついに冷凍販売での商品化にこぎつけたのだ。

発売前からすでに、この商品には大きな反響が寄せられている。名古屋の大手百貨店からも引き合いがあり、現在、正式な取り扱いに向けた商談が進行中だ。全国的にもバターをテーマにしたスイーツの人気が高まる中、話題性のある新商品として百貨店バイヤーの目に留まった形だ。

百貨店の取り扱いが決まれば、より多くの人がこの「バタークリームだけ」を実際に手に取ることができるようになる。オンライン販売だけでなく、実店舗での展開が進めば、新たな層のファン獲得につながる可能性が高い。

ここで注目すべきは、「バタークリームだけ」という商品が、山本氏にとっては長年当たり前の存在だったという点だ。職人にとって、自分が日常的に扱っている技術や素材は、特別なものではなく「普通のこと」になってしまいがちだ。しかし、それを第三者の視点で見れば、「他にはない強み」として際立つことがある。
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このケースでも、山本氏は自信を持っていたバタークリームをすでに様々な形で商品化していたが、「主役」として打ち出す発想には至っていなかった。しかし、オカビズの視点から見ると、「これこそが唯一無二の価値ではないか」となり、新たな展開へとつながったのだ。

多くの中小企業や職人が、同じような課題に直面している。自分たちの「当たり前」の中にこそ、他社には真似できない強みが隠れていることが少なくない。しかし、それに気づくのは難しい。だからこそ、第三者の視点や市場のトレンドを踏まえたアドバイスが重要になる。

今回の「バタークリームだけ」も、まさにその好例といえる。ガトータツミヤが90年以上の歴史の中で培ってきた技術が、新たな形で商品化され、全国のバター好きに向けて届けられようとしている。岡崎の老舗洋菓子店が生み出した「バター好きのためのスイーツ」。果たして、新たな定番スイーツとなるのか。今後の展開に注目したい。