アパレル業界では今、ジェンダーレスファッションやサステナビリティへの対応が新たな成長戦略として注目されている。こうした中、サンブロス(愛知県名古屋市)が展開するメンズカジュアルブランド「Quash(クアッシュ)」が2025年春夏シーズンから、新たな市場開拓に乗り出した。これまでメンズ向けとして展開していたTシャツなどの製品ラインをユニセックスコレクションとして本格展開し、従来のM・Lサイズに加え、新たにSサイズを導入するという戦略だ。さらに、新たに女性デザイナーを採用し、女性の目線からも選ばれるカジュアルブランドへの進化を目指している。

※ジェンダレスを打ち出し出展した展示会(サンブロス提供)
この取り組みは、単なるサイズ展開の拡大にとどまらない。背景には、急成長するユニセックス市場、Z世代を中心としたジェンダーレスファッションの浸透、そしてアパレル業界に求められるSDGsへの対応といった大きな潮流がある。Quashの挑戦は、これらのトレンドを巧みに捉え、新たな市場ニーズを掘り起こすものとなるかもしれない。
サンブロスの歴史とQuashの進化
Quashを展開する株式会社サンブロスは、愛知県名古屋市で1965年にセーターの生産会社として創業し60年の歴史をもつ、いわば中小企業だ。愛知県や岐阜県は、木綿などの生産地に近くまた河川を利用した水力発電などが明治期に整備されたことに伴い、地場産業としてアパレル産業が発展してきた。一方近年では、生産の海外移転や製造小売と言われるSPAの伸長を背景に産地としてはダウントレンドに歯止めがかからない。
こうした中で、現在の代表である小林久敏氏は、2016年に先代の父が病に倒れたことをきっかけに社長へ就任。その後、小売店向けにデジタルを活用した販促サービスを提供するなど、従来のアパレルメーカーからマーケティング支援を行う企業へと進化を遂げてきた。

※サンブロス・小林久敏氏(筆者撮影)
小林氏は中国留学や商社勤務の経験を持ち、アパレル業界における国際的な市場の変化にも精通している。従来の「作って売る」モデルから、「売れる仕組みを提供する」モデルへの転換を図り、メーカー、小売、消費者すべてにとってメリットのあるビジネスモデルの確立を目指している。Quashのユニセックス戦略は、まさにこの企業姿勢を反映した新たな試みだ。
メンズブランドはなぜSサイズを作らないのか? その常識を覆す試み
日本のメンズファッション業界では、Sサイズの展開は一般的ではない。ほとんどのブランドがM・L・XLを基本とし、Sサイズの製造を見送ることが多い。その理由は主に以下の三つに集約される。
こうした業界の通例を覆し、QuashがSサイズを展開する背景には、新たな市場の可能性が見えてきたことがある。
展示会で見えたSサイズの新たなニーズ
Quashは最新の展示会に出展し、男女それぞれのモデルを起用したプロモーションとともにSサイズのTシャツを展示した。その結果、来場者からは予想以上の反響があり、新たな取引の引き合いも来ているという。特に以下の点が新たな発見として浮かび上がった。

※展示会では女性のマネキンにコーディネートし、ジェンダレスを提案(サンブロス提供)
▼アジア系男性など、インバウンド外国人への需要
まず大きな驚きとなったのは、観光地などに店舗をもつ企業などからの引き合いだ。近年、東南アジア地域からの訪日外国人の増加が著しい。こうしたエリアからの観光客の中には、Sサイズを求める声がすくなくないというのだ。たとえばフィリピン人の男性平均身長は166センチなど、日本人と比較した際に小さめのサイズを求める人も少なくない。
しかし、現状ではメンズSサイズの展開が少ないため、外国人観光客にとって選択肢が限られている。Quashの展示ブースでは、外国人むけの観光商品として「Sサイズがあるのか!」という声が寄せられた。これは、インバウンド市場向けの新たなビジネスチャンスを示唆している。
▼レディース市場への拡大の可能性
ジェンダーレスファッションが一般化する中で、すでに女性がメンズアイテムを取り入れることはもはや珍しくない。女性デザイナーを採用した女性目線からの商品が評価されるとともに、展示会では「メンズのMやLだと大きすぎるが、Sサイズなら着やすい」という声も多く聞かれた。また、メンズのSサイズは、通常のレディースだとMやLサイズに相当する。「レディースのMやLサイズを選ぶ女性が、メンズのSサイズなら心理的に購入しやすい」というバイヤーの意見もあり、サイズ表記が購買行動に影響を与えることが明らかになった。

※パンフレットなどでもジェンダレスコーディネートを提案(サンブロス提供)
QuashのSサイズ戦略は、新たな顧客の創造につながりうる取り組みだ
経営学者のピーター・ドラッガーは、企業の存在意義は「顧客の創造」にあると指摘した。
世の中を見回せば、既に様々なものは溢れ、コモディティー化し、価格以外での差別化はとても難しいように感じられることも多い。しかし、ひらめきと工夫1つで、新たな顧客の創造を実現することができるはずだ。
アーネスト(新潟県三条市)は刃を複数枚重ねた「刻み海苔専用ハサミ」を商品はそのままに「シュレッター専用ハサミ」と打ち出すことで、キッチン用品の売り場から、オフィス・事務用品売り場へと販路を拡大し、これまでにない新たな顧客を創造した。
ぺんてる(東京都中央区)は、筆ペンに様々な色のインキを充填した「アートブラッシュ」シリーズを投入することで、カリグラフィーやイラストといった新たな顧客を創造した。
ジェンダレスファッションなどという市場トレンドを背景にしたQuashの新たな取り組みは、インバウンド向けの観光土産や、Sサイズを買いたい(メンズサイズであっても)という女性という新たな顧客の創造につながる取り組みへと広がっている。
中小企業を取り巻く市場環境が厳しいが、むしろ小規模だからこそ、コンパクトでスピーディーな取り組みができるはずだ。こうしたひらめきと工夫で新たな顧客創造を行い、経営革新を進めることが期待される。

※ジェンダレスを打ち出し出展した展示会(サンブロス提供)
この取り組みは、単なるサイズ展開の拡大にとどまらない。背景には、急成長するユニセックス市場、Z世代を中心としたジェンダーレスファッションの浸透、そしてアパレル業界に求められるSDGsへの対応といった大きな潮流がある。Quashの挑戦は、これらのトレンドを巧みに捉え、新たな市場ニーズを掘り起こすものとなるかもしれない。
サンブロスの歴史とQuashの進化
Quashを展開する株式会社サンブロスは、愛知県名古屋市で1965年にセーターの生産会社として創業し60年の歴史をもつ、いわば中小企業だ。愛知県や岐阜県は、木綿などの生産地に近くまた河川を利用した水力発電などが明治期に整備されたことに伴い、地場産業としてアパレル産業が発展してきた。一方近年では、生産の海外移転や製造小売と言われるSPAの伸長を背景に産地としてはダウントレンドに歯止めがかからない。
こうした中で、現在の代表である小林久敏氏は、2016年に先代の父が病に倒れたことをきっかけに社長へ就任。その後、小売店向けにデジタルを活用した販促サービスを提供するなど、従来のアパレルメーカーからマーケティング支援を行う企業へと進化を遂げてきた。

※サンブロス・小林久敏氏(筆者撮影)
小林氏は中国留学や商社勤務の経験を持ち、アパレル業界における国際的な市場の変化にも精通している。従来の「作って売る」モデルから、「売れる仕組みを提供する」モデルへの転換を図り、メーカー、小売、消費者すべてにとってメリットのあるビジネスモデルの確立を目指している。Quashのユニセックス戦略は、まさにこの企業姿勢を反映した新たな試みだ。
メンズブランドはなぜSサイズを作らないのか? その常識を覆す試み
日本のメンズファッション業界では、Sサイズの展開は一般的ではない。ほとんどのブランドがM・L・XLを基本とし、Sサイズの製造を見送ることが多い。その理由は主に以下の三つに集約される。
日本人男性の平均体型に合わせた標準サイズ戦略
日本人男性の平均身長は約171cmとされており、多くのブランドではMサイズが最も汎用性が高いと考えられている。Sサイズを作っても対象となる顧客層が限られるため、生産コストの観点から敬遠されがちだ。
オーバーサイズトレンドの影響
近年、メンズファッションではルーズシルエットやオーバーサイズが主流となっており、多くの消費者が意図的にMやLサイズを選ぶ傾向にある。そのため、Sサイズを展開しても「わざわざ小さめを選ぶ人が少ない」と考えられてきた。
生産コストと在庫管理の問題
アパレル業界では、サイズごとに製造コストが異なり、需要が少ないサイズを生産すると在庫リスクが高まる。M・Lサイズを中心に展開すれば生産効率を向上させることができるため、Sサイズはあえて作らないというブランドが多かった。
こうした業界の通例を覆し、QuashがSサイズを展開する背景には、新たな市場の可能性が見えてきたことがある。
展示会で見えたSサイズの新たなニーズ
Quashは最新の展示会に出展し、男女それぞれのモデルを起用したプロモーションとともにSサイズのTシャツを展示した。その結果、来場者からは予想以上の反響があり、新たな取引の引き合いも来ているという。特に以下の点が新たな発見として浮かび上がった。

※展示会では女性のマネキンにコーディネートし、ジェンダレスを提案(サンブロス提供)
▼アジア系男性など、インバウンド外国人への需要
まず大きな驚きとなったのは、観光地などに店舗をもつ企業などからの引き合いだ。近年、東南アジア地域からの訪日外国人の増加が著しい。こうしたエリアからの観光客の中には、Sサイズを求める声がすくなくないというのだ。たとえばフィリピン人の男性平均身長は166センチなど、日本人と比較した際に小さめのサイズを求める人も少なくない。
しかし、現状ではメンズSサイズの展開が少ないため、外国人観光客にとって選択肢が限られている。Quashの展示ブースでは、外国人むけの観光商品として「Sサイズがあるのか!」という声が寄せられた。これは、インバウンド市場向けの新たなビジネスチャンスを示唆している。
▼レディース市場への拡大の可能性
ジェンダーレスファッションが一般化する中で、すでに女性がメンズアイテムを取り入れることはもはや珍しくない。女性デザイナーを採用した女性目線からの商品が評価されるとともに、展示会では「メンズのMやLだと大きすぎるが、Sサイズなら着やすい」という声も多く聞かれた。また、メンズのSサイズは、通常のレディースだとMやLサイズに相当する。「レディースのMやLサイズを選ぶ女性が、メンズのSサイズなら心理的に購入しやすい」というバイヤーの意見もあり、サイズ表記が購買行動に影響を与えることが明らかになった。

※パンフレットなどでもジェンダレスコーディネートを提案(サンブロス提供)
QuashのSサイズ戦略は、新たな顧客の創造につながりうる取り組みだ
経営学者のピーター・ドラッガーは、企業の存在意義は「顧客の創造」にあると指摘した。
世の中を見回せば、既に様々なものは溢れ、コモディティー化し、価格以外での差別化はとても難しいように感じられることも多い。しかし、ひらめきと工夫1つで、新たな顧客の創造を実現することができるはずだ。
アーネスト(新潟県三条市)は刃を複数枚重ねた「刻み海苔専用ハサミ」を商品はそのままに「シュレッター専用ハサミ」と打ち出すことで、キッチン用品の売り場から、オフィス・事務用品売り場へと販路を拡大し、これまでにない新たな顧客を創造した。
ぺんてる(東京都中央区)は、筆ペンに様々な色のインキを充填した「アートブラッシュ」シリーズを投入することで、カリグラフィーやイラストといった新たな顧客を創造した。
ジェンダレスファッションなどという市場トレンドを背景にしたQuashの新たな取り組みは、インバウンド向けの観光土産や、Sサイズを買いたい(メンズサイズであっても)という女性という新たな顧客の創造につながる取り組みへと広がっている。
中小企業を取り巻く市場環境が厳しいが、むしろ小規模だからこそ、コンパクトでスピーディーな取り組みができるはずだ。こうしたひらめきと工夫で新たな顧客創造を行い、経営革新を進めることが期待される。
